へたりあ猫卓ブロマガ

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【ヘタリア猫卓】のらねここねこ【小話本書き下ろしweb再録】

※この記事はヘタリアにゃんこCoC動画の設定に基づく小話です。
※2019/10に発行した再録本『A cat has nine lives.』のため書き下ろした話です。完売から1年経ちましたのでweb公開します。
※セッションではありません。猫たちの過去のお話です。
※こういう過去があるかもね?程度の小話であり、視聴者の方による三次創作の内容を制限・否定するものではありません。今後も自由に想像・創作していただいて構いません。
※そういう余計なの別に知りたくない、動画だけで良いっていう人は退避をお勧めします。
カップリング等腐向けの意図は皆無です。ただの微笑ましい猫の戯れです。
※当ブロマガの右メニューにてカテゴリ分けをしています。小説だけ読みたい方は、そちらから小説記事のみご覧ください。






その野良猫たちは本当にかっこよかった。勇敢で、いろんなことを知っていて、いつでも何でも楽しそうだった。
大きくて力が強くて誰にでも親しげな猫と、身軽で傷だらけで騒々しい猫。アルフレッドさんとギルベルトさん。
彼らはよく一緒に悪ふざけをしていて、ぼくは遠くからそれを見るのが好きだった。
また彼らは時々きれいな飼い猫たちと一緒にいることもあって、それもうらやましかった。どうやったら飼い猫と友達になれるんだろう。
ルフレッドさんは「いつか自分がこのへんのボスになる」と楽しげに豪語する猫で、まだ若い彼のそんな発言を他の猫たちは笑って流していたけど、ぼくは彼がボスになったらどんなに毎日が刺激的だろうとワクワクした。そしてアルフレッドさんがそう言う隣で毎回ゲラゲラ笑って「まぁ精々頑張れよ」とからかうギルベルトさんが、それでも「アルには無理だ」とは決して言わないことにぼくは気付いていたので、きっと本当にいつかアルフレッドさんはボスになるんだろうと思う。その日が来たら、ぼくのことを子分にしてくれるだろうか。

ぼくは彼らに助けてもらったことがある。
彼らはぼくを助けたとは思ってないかもしれないし、だからさっさと忘れてしまったかもしれない。でもぼくは「命を助けてもらった」と思っている。
ぼくは今でもちっぽけな猫だけど、そのときのぼくは一層チビの子猫だった。ママのおっぱいに用がなくなって、小さな生き物を捕まえて口に入れるのが最高に楽しいし美味しいと気付いたころだ。
自分の隠れ家を探そうと思ってずっと歩いていた。ママのお腹に守られて眠るのはもう卒業だ、ぼくは自分でなんでもやるし自由にどこへでも行くんだと考えて、本当にどこまでも歩いていった。ほかの猫のナワバリとかいうものをいくつか越えた。この先に何があるのかさっぱり分からないけど、その未知に一歩一歩踏み込む感覚がぼくの心を駆り立てていた。
そうするうち、お腹がすいた。もちろん道中で発見した食べられるものは何でも口に入れながら歩いてきたけど、それでも当時のぼくはまだまだ狩りが下手くそだった。そして眠たくもなってきた。
よたよたと物陰にまで行き、そこで少し休もうと丸くなって目を閉じた。
今なら分かるけれど、もしそのままだったらぼくは飢えて死んでいた。少ないごはんで歩き続けて、狩りをする余力がなくて、お腹がすいて、眠ってしまったのだから。幸運にもそうはならなかったし、今はそんなヘマなんてしないけど。
ふと物音で目が覚めた。眼だけ開けてきょろきょろすると、少し離れたところに白っぽい猫が二匹いるのが分かった。話し声も聞こえた。
「今日はここでやるぞ!」
「ふうん、まぁいいんじゃねえか」
「今日こそ勝つからね!」
「フッヘッヘ、楽しみにしてるぜ~」
「ルールはいつも通り! 獲ったのはそれぞれここに置いて」
「了解」
「いいかい? いくぞー!」
そして二匹はパッとそれぞれの方向へ身を翻した。
ぼんやりした頭でしばらくそれを眺めて分かったけれど、どうやら狩りの競争みたいだった。二匹ともネズミを咥えて戻ってきてはそれを置いてまた素早く次の獲物に狙いを定めて飛び出していった。それを見てようやくぼくは、この小さな納屋にはちゃんと食べ物がたくさんあったこと、けれど今の自分にはそれを獲るだけのスキルも体力もないだろうということに気付いたのだった。
いいなぁ、と思ってただ眺めていると、突然目の前に白猫の一匹が現れた。本当に、それは魔法みたいに、瞬間的に現れたみたいに見えた。
彼は鋭い瞳を丸くしてぼくを見て、それからグフッと笑った。そして身を縮めているぼくの真ん前に、咥えていたネズミをぼとりと落とした。
驚いて彼を見上げるのと、空腹に耐えきれず無言でそれにむしゃぶりついてしまうのと同時だった。いくらお腹ぺこぺこの子猫とはいえあまりに行儀の悪い振る舞いだったと思う。
彼はそんなぼくを見下ろしてまた小さく変な息の音で笑った。そして一口目をなんとか飲み込んでお詫びとお礼を言おうとしたぼくをニンマリした目で制して「ハンデだ、内緒な!」と小声で言い、ちらりと視線をもう一匹の猫の方へ一瞬向けてみせた。
「さっさとどっか行けよ」
そう言い捨てた彼はもうぼくを見ず、素早くしなやかな身のこなしで狩りゲームに戻っていった。
彼のしたこととはいえ彼らの競争の公平性をぼくが欠いてしまったことは分かったので、もう一匹の白猫に気付かれないうちにぼくは大急ぎでその納屋を離れた。分けてもらったネズミは、こんなにおいしいものは生まれて初めて食べたと思うほどだった。

彼らに再会したのは数日後、そっと紛れ込ませてもらった月夜の猫集会でのことだ。
ネズミをくれた彼を見つけてお礼を言おうと思ったら、彼の方も気付いてニヤニヤしながら寄ってきた。
「よお!」
「こ、こんばんは、あの」
「元気そうだなチビ助!」
「はい、あの、この前はネズ」
言いかけたところで彼がさっと手を出して、ぼくの頭をぽこんと叩いた。爪はきちんとしまわれていたし痛くもなんともなかったけど、驚いてしまってぼくはコロリと後ろにひっくり返った。
「オイ、内緒っつったろ」
低く掠れた声で囁かれ、彼の凶悪な顔立ちも相まってぼくはヒエッと縮み上がった。
「あ! ギルがちっちゃいのをイジめてるぞ! こらー!」
そんなことを叫びながら楽しそうに笑って乱入してきたのは、あの夜のもう一匹の白猫だ。その声に彼はヤレヤレという顔になって、もう一度ぼくに向かって「しーっ」とあの出来事の沈黙を命令するジェスチャをしてから振り返った。
「いじめてねえよ!」
「君、この俺が来たからにはもう安心だぞ! 世界の平和を守るため、覚悟しろ怪獣ギルバート!」
「は? オイいきなり何か始まっ……おい待て止めろ! 重いんだよお前は!」
「ハハハハ! ほら君も! このヒーローに力を貸してくれ!」
「えっ」
そうして彼らはぼくや近くにいた無関係の猫も巻き込みつつゴロゴロ楽しく暴れ、猫集会は一時騒然となったが、その取っ組み合いのあとは二匹ともケロッとして何事もなかったかのように別の話を始めていたのでその不思議な関係性にぼくは首を傾げたし、よく分からないけどなんだかいいな、と思った。
とにかく彼ら、アルフレッドさんとギルベルトさんはそういう愉快な二匹なのだった。

ルフレッドさんがあの夜あの納屋を決戦の地に選ばなかったら、彼らがそこでするのが狩りゲームでなかったら、ギルベルトさんがネズミをくれなかったら。
内緒だから誰にも言わないし彼ら本人にも言わないけど、あの二匹はぼくの恩人だし、憧れの猫だった。
さらにあの集会での騒動で散々巻き込まれたぼくは、それがきっかけであっさりこの界隈の猫の輪に入れてもらえてその後食べ物や寝床に困ることはなくなったので、そういう意味でも彼らには感謝している。
口に出して礼を言えない恩がいっぱいあるのだ。

彼らは臆さずどこへでも行くし、ケンカも強いし危険を顧みずものすごい冒険をするし、どんな相手とでも親しくおしゃべりする。
ぼくはその真似をしている。あの二匹のような立派な野良猫になりたいからだ。

ウィルさんに食べ物を届けるのは嬉しい役目だった。
かつてぼくが空腹で丸くなっていたときにネズミをくれたギルベルトさんがしてくれたのと同じ行為だからだ。あと、最初にウィルさんを見つけたときは恐れをなして逃げ帰ってしまったので、その汚名を返上したいという思いもある……恥ずかしいので言わないけど。
それに、ウィルさんからいろいろな話を聞くのも楽しい。今日は彼の故郷の不思議な生き物の話をしてもらった。こういう話にも、もしかしたら敵の情報や敵に対抗する手段の情報があるかもしれない。
ルフレッドさんたちは別の場所で調査をしている。ぼくもお役に立ちたい。

大きなネズミだ。おおき な